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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)42号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願考案の要旨)、同三(審決の理由の要点)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1  成立に争いのない甲第二号証の一ないし三によれば、本願明細書の考案の詳細な説明中には、本願考案は、オープンエンド精紡機のボビン支持アームの荷重減少装置に関するものであつて(本願明細書第三頁第一一行、第一二行、昭和五七年八月二〇日付手続補正書第二頁第六行、第七行)、本願考案の目的は、「密度がほぼ一定な染色用ボビン・パツケージが製造できるように、ボビン・パツケージ形成過程の始めから摩擦駆動ドラム上のボビン・パツケージの巻取径の増大による接圧の増加にさからつて、接圧を実質的に変化させない簡単な構造の装置を創造すること」(本願明細書第五頁第一一行ないし第一七行、昭和五八年七月二日付手続補正書第二頁第八行ないし第一五行)及び「本考案の装置を既存の機械に工具を使うことなく且つ後で着脱自在に設けること」(本願明細書第五頁第一八行ないし第二〇行)にあると記載されていることが認められる。

ところで、当事者間に争いのない前記本願考案の要旨によれば、本願考案は、「第二のバネ要素(14、25)を支持アームに着脱自在に設け」ることをその要旨とするものであるところ、いかなる場合に第二のバネ要素(14、25)を付加し、いかなる場合にこれを取り外すかについては何ら規定していないから、本願明細書の考案の詳細な説明中に前記のような記載があるからといつて、本願考案において第二のバネ要素(14、25)を着脱自在とすることの目的を染色用ボビン・パツケージを臨時に生産するときに第二のバネ要素(14、25)を付加し、それ以外のボビン・パツケージを生産するときにこれを取り外すものと限定して解釈することはできない。もつとも、本願考案の要旨に本願明細書の前記記載事項を参酌すると、本願考案は、パツケージ形成過程において、巻取の初期は摩擦駆動ドラムに対しボビン・パツケージを押し付け、パツケージが更に大きくなるとパツケージの接圧を減少させる作用をする第一のバネ要素(11)を備えたオープンエンド精紡機の支持アームの荷重減少装置において、着脱自在な第二のバネ要素(14、25)を設け、ボビン・パツケージの巻取径の増大による接圧の増加に逆らつて、接圧を実質的に変化させることがないようにして、ボビン・パツケージの用途に応じ、密度がほぼ一定であるボビン・パツケージをも製造することのできる簡単な構造のものを提供することを技術的課題とし(「本考案の装置を既存の機械に工具を使うことなく且つ後で着脱自在に設けること」という前記認定の本願考案の目的の一つについての記載は、表現上若干の不明りようさを免れないが、右技術的課題のうち第二のバネ要素(14、25)を工具を用いることを要しないで着脱自在に設け、第二のバネ要素(14、25)を第一のバネ要素(11)に付加し、又は付加しないで使用する場合に資することを述べたものと解される。)、これを達成するために本願考案の要旨とする構成を採用し、特に第二のバネ要素(14、25)を支持アームに着脱自在に設けることにより、第二のバネ要素(14、25)を第一のバネ要素(11)に付加した場合と付加しない場合の両方の使用を可能としたものというべきである。

これに対し、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例記載のものは、紡機におけるチーズ(本願考案のボビン・パツケージに相当する。)形成装置に関するものであつて、チーズとそれを回動する摩擦駆動ローラとの間の接触圧力がチーズ形成中、チーズ径の変化に対応する加圧機構によつて適正に与えられ、良好なチーズ形状を得られるチーズ形成装置を提供すること(引用例の第一頁左下欄第一四行ないし右下欄第二行)を技術的課題とするものであつて、引用例には、本願考案における密度がほぼ一定であるボビン・パツケージをも製造することのできる装置の提供についての明示的な記載はないことが認められる。

しかしながら、前掲甲第三号証によれば、引用例記載のものは、チーズ形成過程において、巻取の初期は摩擦駆動ローラ(2 本願考案の摩擦駆動ドラムに相当する。)に対しチーズ(4)を押し付け、チーズ(4)が更に大きくなるとチーズ(4)の接圧を減少させる作用をするコイルスプリング(6a 本願考案の第一のバネ要素に相当する。)を備えた紡機のクレードル(5 本願考案の支持アームに相当する。)の荷重減少装置であつて、さらにコイルスプリング(6b 本願考案の第二のバネ要素に相当する。)を設け、前記コイルスプリング(6a)の作用点をクレードルブラケツトの支軸(10 本願考案の固定軸(X)に相当する。)に関しクレードル(5)のチーズ支持側と反対側のクレードル(5)の自由端部に設定し、チーズ(4)の巻取径の増加による自重の増加と前記支軸(10)を中心とするクレードル(5)の回動によるコイルスプリング(6a)の作用の組合せ効果によつて生ずるチーズ接触圧力の減少に対し、この接触圧力を改良する反撥能をコイルスプリング(6b)に保有させたことを特徴とする装置であつて、これらの構成において本願考案と一致するものであると認められ(このことは原告が認めて争わないところである。)、一方、必要とするバネ要素の反撥力(又は復元力)の大きさが二以上ある場合、それぞれ必要とする反撥力(又は復元力)の大きさに調整するために、複数のバネ要素のうち不要のものを取り外したり、あるいは新たに必要とするバネ要素と交換したりする技術が本願考案の登録出願前周知であつたことは当事者間に争いがない。

そうであれば、たとえ本願考案と引用例記載のものとが直接の技術的課題を異にするものであつても、引用例記載のものに前記周知技術を適用して本願考案における第二のバネ要素(14、25)を支持アームに着脱自在にし、第二のバネ要素(14、25)を第一のバネ要素(11)に付加した場合と付加しない場合の両方の使用を可能にすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることというべきである。

原告は、前記周知技術に基づいて本願考案の前記構成を採択することは当業者にとつてきわめて容易であるとはいえない旨主張するが、引用例記載のものが前記構成の点において本願考案と一致するものである以上、引用例記載のものに前記周知技術を併せ考えるならば、本願考案の前記構成を採択することが当業者にとつてきわめて容易でないとする理由は見いだせない。

したがつて、相違点(2)について、本願考案のように第二のバネ要素(14、25)を支持アームに着脱自在に設けることは、当業者が前記周知事項により必要に応じて適宜なし得ることであるとした審決の判断には誤りはない。

2  当事者間に争いのない本願考案の要旨に本願明細書の前記1認定の記載事項を参酌すると、本願考案の技術的課題は前記1認定のとおりであり、本願考案はこれを達成するためにその要旨とする構成を採用し、特に第二のバネ要素(14、25)の支持アームに対する作用点を機械フレーム上の固定軸(X)に関し第一のバネ要素(11)の作用点と反対側に設定したことにより、第二のバネ要素(14、25)を工具を用いることなくオープンエンド精紡機の支持アームに着脱自在にしたものというべきである。

これに対し、引用例記載のものの技術的課題は前記1認定のとおりであつて、引用例には本願考案におけるような技術的課題についての明示的な記載は存しない。

しかしながら、前掲甲第三号証によれば、引用例には、「ロツド(14a)、(14b)を軸支する突起部(11)及び軸(15)は図示例ではロツド(14a)、(14b)に共通であるが、これらを別々に設けてもよい。」(第三頁左上欄第一行ないし第三行)と記載されており、この軸(15)はコイルスプリング(6a)、(6b)の作用点であることが認められるから、右記載はコイルスプリング(6b)の作用点をコイルスプリング(6a)の作用点と反対側に設定する場合も示唆するものと理解することができ、また、テコやリンク等支点を有する運動機構において力の作用点の位置を支点を越えて反対側に移しても、同じ方向及び同じ大きさの回転モーメントを作用させ得ることは技術常識であることは当事者間に争いがない。

そうであれば、当業者にとつて、引用例の前記記載事項に右技術常識を併せ考えるならば、本願考案における第二のバネ要素(14、25)の支持アームに対する作用点を機械フレーム上の固定軸(X)に関し第一のバネ要素(11)の作用点と反対側に設定する構成とし、これによつてコイルスプリング(6b)を工具を用いることなく紡機のクレードル(5)に着脱自在とすることはきわめて容易に考えつくことというべきである。

原告は、引用例の前記記載は、引用例記載のものの所期の目的、作用効果を達成するための設計変更を示唆するものであり、また、前記技術常識に基づいて本願考案の前記構成がきわめて容易に考えつくとはいえない旨主張する。

しかしながら、引用例の前記記載中には、コイルスプリング(6b)の作用点を常に必らずコイルスプリング(6a)の作用点とクレードルブラケツトの支軸(10)に対して同じ側に設定する趣旨であると理解すべき表現は用いられていないことは明らかであり、さらに前掲甲第三号証を検討しても、引用例の前記記載を右のように限定して解釈することを相当とする根拠は見当たらない。また、引用例の前記記載に前記技術常識を併せ考えても、当業者にとつて本願考案の前記構成を採択することがきわめて容易でないとする理由も見いだすことができない。

したがつて、相違点(3)について、二つのバネ要素の作用点を別々にし、第二のバネ要素の作用点を第一のバネ要素の反対側に設定したことは、引用例記載の事項によりきわめて容易に考えつくことであるとした審決の判断には誤りはない。

3  当事者間に争いのない本願考案の要旨に本願明細書の前記1認定の記載事項を参酌すると、本願考案の技術的課題は前記1認定のとおりであり、本願考案はこれを達成するためにその要旨とする構成を採用し、特にボビン・パツケージの接触圧力を巻取作業中に実質的に変化させないような反撥能を第二のバネ要素(14、25)に保有させることにより、密度がほぼ一定であるボビン・パツケージを製造することを可能としたものというべきである。

これに対し、引用例記載のものの技術的課題は前記1認定のとおりであつて、引用例には本願考案におけるような技術的課題についての明示的な記載は存しない。

そして、前掲甲第三号証によれば、引用例には、「チーズ巻き始め時と巻き終り時の上記接触圧力が定められる場合、チーズの形状はその形成途中の接触圧力の履歴によつて良くなつたり悪くなつたりし該接触圧力の積分値が大きいほどチーズ形状が悪くなる。チーズ径を横軸に接触圧力を縦軸にとつた第3図において(A)、(B)、(C)の順にチーズ形状が悪くなる。」(第二頁左上欄第一〇行ないし第一六行)と記載され、別紙図面(二)第3図に示された線はチーズと摩擦駆動ローラとの接触圧力はチーズが形成されるに従い漸減するものであることを示していることが認められる。そして、引用例の右記載によれば右第3図に示されたA、B、Cの三線のうち、A線のものが良好なチーズ形状であると開示していることは明らかである。

しかしながら、前掲甲第三号証によれば、引用例には、「コイルスプリング(6a)、(6b)の組み合せは図示例以外にても可であり、夫々のスプリングの形状や、支軸の位置、軸(15)の位置を独立して適宜に定められるから、各スプリングによるクレードルの回転モーメントM1、M2を比較的自由に選べるため接触圧力の履歴曲線を広い範囲で希望する値に定めることが容易となる。」(第三頁左上欄第三行ないし第一〇行)と記載されていることが認められるから、引用例には、第3図に示されたA線のもの以外にも、二つのスプリング(6a)、(6b)によるクレードルの回転モーメントを選び、接触圧力の履歴曲線を広い範囲で希望する値に定められることが開示されているというべきである。

そして、前掲甲第三号証によれば、引用例の前記第3図及び第5図(a)は、いずれもチーズ径(横軸)に対するチーズ・摩擦駆動ローラ間の接触圧力(縦軸)の関係を示した曲線図であつて、第3図中のB線は傾斜しているがほぼ直線状をなしており、一方第5図(a)中にはスプリングによる接触圧力成分Ps(B)、チーズの自重による接触圧力成分PW、クレードル及びボビン等の自重による接触圧力成分PW′、チーズ・摩擦駆動ローラ間の接触圧力P(B)(Ps(B)とPWとPW′との合力)が示されているが、両図を対照すると第3図中のB線は、第5図(a)に示されたP(B)線にほぼ該当するものと認められる。そこで、当業者であれば、引用例の右記載事項から、PW′は一定で、PWは糸の巻取作業の進行によるチーズ径の増大につれて増加するため、この増加量とPs(B)の減少量とをほぼ等しくすれば、P(B)をほぼ水平な直線とすることができることはきわめて容易に考えつくことと認められ、このようにすることが一つのスプリングによつては困難であれば、前掲甲第三号証によれば、引用例の別紙図面(二)第8図は、二つのコイルスプリングを用いた引用例の実施例によるクレードルの回転角度(横軸)とバネによるクレードルの回転モーメント(縦軸)との関係を示すグラフであり、引用例には、このグラフに示されているように、二つのコイルスプリング(6a)、(6b)によるクレードル(5)の回転モーメント成分M1、M2の合成モーメントとしてクレードル(5)に回転モーメントMを附与できること(第二頁右下欄第九行ないし第一六行)が記載されているものと認められるから、この二つのコイルスプリング(6a)、(6b)を組み合わせた合成モーメントとすることによつて、P(B)線をほぼ水平な直線とし、これによりチーズ(4)と摩擦駆動ローラ(2)との接触圧力を巻取作業中に実質的に変化させないようにすることはきわめて容易に考えつくことと認められる。

そして、巻取作業中の接触圧力をほぼ一定にするようにした糸条の巻取装置自体は、本願考案の登録出願前周知であつたことは、当事者間に争いがない。

そうであれば、本願考案においてボビン・パツケージの巻取径の増加による自重の増加と固定軸(X)を中心とする支持アームの回動による第一のバネ要素(11)の作用の組合せ効果によつて生ずるパツケージ接圧の減少を補償して、パツケージ接圧を巻取作業中に実質的に変化させない反撥能を第二のバネ要素(14、25)に保有せしめるようにし、これにより密度がほぼ一定であるチーズを製造することはきわめて容易に考えつくことというべきである。

原告は、引用例記載のものは、チーズ径の増大に伴う接触圧力の漸減によつて前記第3図に示されたA曲線のような良好なチーズ形状を得ることを技術的課題とするものであり、引用例の第三頁左上欄第一行ないし第一〇行中の第二のバネ要素の種類や特性の選択に関する記載は、所期の目的、作用効果を達成する範囲内で行われる設計変更を示唆するにすぎず、また、前記周知技術に基づいて本願考案の前記構成がきわめて容易に考えつくとはいえない旨主張する。

しかしながら、引用例は、前記第3図に示されたA線のもの以外にも、二つのコイルスプリング(6a)、(6b)によるクレードル(5)の回転モーメントを選び、接触圧力の履歴曲線を広い範囲で希望する値に定めることができるものであることは、前記認定のとおりであり、引用例記載の事項に前記周知技術を勘案して本願考案の前記構成を得ることが困難であるとすべき理由はない。

したがつて、第二のバネ要素の種類や特性を適当に選ぶことによつて、ボビン・パツケージ接触圧力を巻取作業中に実質的に変化させないような反撥能を第二のバネ要素に保有させたことは、引用例記載の事項によりきわめて容易に考えつくことであるとした審決の判断には誤りがない。

4  以上のとおりであるから、本願考案は、引用例記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとした審決の判断は正当であつて、審決には原告の主張する違法は存しない。

三  よつて、審決の違法を理由に、その取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

支持アームが機械フレーム上の固定軸(X)に回動可能に設けられ、自重に依つて摩擦駆動ドラムと摩擦接触するボビン・パツケージを支持し、更に巻取の初期は摩擦駆動ドラムに対しボビン・パツケージをおしつけ、パツケージが更に大きくなるとパツケージの接圧を減少させる作用をする第一のバネ要素をそなえたオープンエンド精紡機の支持アームの荷重減少装置であつて、更に第二のバネ要素(14、25)を支持アームに着脱自在に設け、第一のバネ要素(11)の作用点を前記固定軸(X)に関し支持アームのボビン・パツケージ支持側と反対側の支持アーム自由端部に設定し、一方第二のバネ要素(14、25)の支持アームに対する作用点を前記固定軸(X)に関し第一のバネ要素(11)の作用点と反対側に設定し、ボビン・パツケージの巻取径の増加による自重の増加と固定軸(X)を中心とする支持アームの回動による第一バネ要素(11)の作用の組合せ効果に依つて生ずるパツケージ接圧の減少を補償して、パツケージ接圧を巻取作業中に実質的に変化させない反撥能を前記第二バネ要素(14、25)に保有せしめたことを特徴とする装置。

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

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別紙図面(二)

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